付き合うなら、俺にしませんか





なまえさんが、豪炎寺さんにフラれたらしい。


らしい、というのは、直接そう聞いた訳ではなくて、部室に来た時の豪炎寺さんの様子が少しおかしいと思ったから。
なんとなく、本当になんとなく感じただけだったが、ただ直感でなまえさんに告白されたんだと思った。
なまえさんの姿は見えなくて、探してみれば、案の定。
誰もいない屋上で、彼女は一人泣いていた。
広い屋上の隅、フェンスにすがるようにして、声もあげずにただ涙を流していた。
そんななまえさんを見ていられなくて、俺は黙って彼女の隣に座った。







「虎丸くん……?」


俺に気付いたなまえさんが、悲しげな目を丸く見開いて俺を見上げる。
慌てて涙を拭いながら精一杯の笑顔を作る彼女に、心がぎゅうと締まった。
どうしてここに、と訊ねる言葉に、あなたを探しにきたのだと告げる。




「え、へへ……恥ずかしいとこ見られちゃったなあ…」


でも、探してくれてありがとうね。と。
無理矢理に笑う赤く腫れた目が痛々しくて、見ていられなかった。










「……俺に、しませんか」








「え…?」
「なまえさんが豪炎寺さんを好きなのは知ってます。だけど、それと同じくらい……いえ、きっとそれ以上に俺はなまえさんが好きです」
「虎丸、くん…?」
「俺なら、貴女を泣かせません。絶対に幸せにしてみせます」





少しばかり卑怯な言い方かもしれない。
けれど、弱みにつけこむつもりではなかった。
俺はただ純粋に、彼女の支えになりたいと思ったのだ。











「付き合うなら、俺にしませんか」


(気休めでもいい、貴女の力になれるのなら)



title by鏡花水月